会社帰りの電車で座れんかった。
疲れていて何か腹が立ったので、
ドアの傍に立っていた。

ふと横の座席を見ると、子どもが座って
一心不乱に本を読んでいる。
そのうち「ドサッ」と音がして、彼は荷物を
床にばら撒いてしまった。

あーあ。
お姉さん、仕事で疲れてんだよ。

あわてながら荷物を拾う彼を手伝った。
彼は私を見て「すみません」を連発している。
お愛想の一つでも言えばいいものを、
私は何も言い返せんかった。
だって疲れて、頭が朦朧としてたんだもん。

私は黙ってると「怒ってる?」と
よく聞かれるのだが
多分彼もそう思ったのだろう。
怯えたように何度も「すみません」と言っている。

ごめんな。
お姉ちゃん、ホンマに疲れとってん。
君の荷物拾ってから、立ち上がるのも
しんどかったよ。

それからも座席には座れんかったけど
私は彼の荷物を拾うために立っていたのだと
思うことにした。
 
 
 

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