みんないた

2013年4月18日 エッセイ
年明けから奥さん(おかん猫)の姿を見かけなくなっていた
私がしでかしたことに恐れおののいて逃げてしまったのかもしれない
ずっとそう思っていた

実は去年12月28日に誤って彼女を踏みつけそうになった
闇夜に黒猫 これほど見えにくいものはあるまい
足元にうずくまっている猫を見つけ、挙げた足をあわてて違う方向に下ろしたが
時すでに遅し 彼女は半狂乱になって逃げてしまった
それから奥さんの姿を見ることはなく
ついでに娘の方の黒ねこも見かけなくなった
奥さんはもともと野良猫なので、また野良に戻ったのかもしれない
しかしお嬢はどこへ行った
ごめんねと心の中でいくら謝っても、もう猫はいない
隣家の飼い主に聞こうと思ったが親交が無いためあきらめた

年が明けて3月の末、家の近所を歩いていると
20メートルほど先に黒ねこがトコトコと歩いているのが見えた
見覚えのある太めのぎざぎざしっぽ
居ても立ってもいられず追いかけると、
その猫は道路の淵からよいしょ、と雑草が茂る田んぼの中へ飛び込んだ
果たして奥さんなのだろうか
飛び込み方が何というか敏捷ではなく、いかにも中年女性が
「よいしょ」とアクションを起こす様にとても似ていたのだ
期待で胸がどきどきする

しばらく見ていると、ねこはずぼっと雑草から顔を出した
じっと見つめているわたしに気づき「えっと…何か用?」と途惑った表情
間違いなく奥さんだった
テンションがめちゃ上がったわたしは
これ以上驚かせてはだめだと思い、そそくさとその場を離れた 
また会えたことがこんなにも嬉しいとは
うきうきと家まで走って帰った

それから半月ほど経ったころ
再び奥さんを見かけて追いかけた
わたしが付いていっているにも関わらず、まるで彼女は無関心だ
やがて細い道の角をまがった黒ねこは青天井の駐車場へと入っていく
それに続いたわたしは敷地の入口で「あ」と声を出した

みんないた
お嬢も他の居なくなった猫も見たことがない猫も仲良くたむろして寝そべっていた
奥さんはまっすぐその群れに向かい、合流する
全員がわたしに気づいたが誰も逃げない
安心しているのか、どうでもいい存在なのか存在自体が無いのか
わたしはその場を離れて静かに家に帰った

奥さんを急に見かけなくなった理由は
お隣さんがあまり彼女を家から出さなくなったためだと後で知った
驚いて逃げた彼女はしばらく行方不明だったのだと
やはり悪いのはわたしだった
心の中で謝りつつ、彼女の姿を探すことをやめられない
もう一度会えてよかった

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